裁判の主文や判決文は、すでに紹介のとおりである。そもそもの判決はどのようなプロセスで書かれるのだろうか。否が応でも裁判を続ければ、審理方法が少しくらいはわかってくる。それを書こうと思う。

裁判所は「審理」するためにあらゆる事象が言語化され、文章により可視化される場所である。原告や被告の主張が文章化され、証拠と交えて提出される。その事象を言語化する弁護士は、重要な存在であることは言うまでもない。

特に文章と証拠の関係性において弁護士は、裁判制度の運用面を支える存在であり、担保する役割を担っている。

たとえば、メンバーたちのような素人は、弁護士にこと細かく点(証拠)と点(証拠)を結んで説明したくなる。しかし、弁護士はすべての証拠を確認するが、その一部しか使わずに主張書面を書くのだ。

不思議に思えるのだが、裁判官もそれを信頼して読む。裁判官は、弁護士実務として依頼人より証拠に基づく説明を受けたと信用するからだろう。

ゆえに簡潔な文章と要点を押さえた少しの証拠で裁判が運用されている。

前弁護団はメンバーたちの話を聞かず、想像で書面を書き提出していた。文章と証拠のアンバランスさに裁判官たちは気づいたはずだ。当然のように判決文には、前弁護団の書面がほとんど事実認定されていない。

裁判官は、おそらく弁護士が担保した主張書面を読み「事実認定」を行うのだろう。その認定事実の点や線をつなぎ合わせて、裁判官が「評価」を加える。そして、裁判官は認定事実と評価した内容を法令に従って整理する。

それを書き起こしたのが「判決」というものではないかと思う。ざっくりとしたイメージだが、それほど見当はずれでもないと思う。

素人だからこそ感じる“新鮮さ”なのかもしれないが、文章化されると膨大な情報量にもかかわらず、重要なポイントに“気づきやすくなる”のに驚かされる。

そうした“気づく”習慣が極みの頂点に達した法学者などが、判決文を読めば「審理過程」は一目瞭然だろうし、認定事実と評価のポイントをつかみ鋭い論考が加えられてしまう。

2025年(令和7年)10月ごろであったが、弁護団に教えられ角谷判決が掲載された専門誌を買った。

労働法律旬報2087号』という専門誌であり弁護士や専門家向けとはいえ、法曹界では広く読まれているそうであった。本誌の「労働判例速報」に国学院大学本久洋一教授の解説つきが掲載され、「労働判例」にはスーパーホテル事件の判決全文が掲載された。 本久教授は労働判例速報の中で、まさに簡潔だが鋭く論考している。

本判決は、昭和六〇年労基研報告に照らして客観的には労働者性を肯定的に評価すべき諸事情について、すべて本件委託契約の目的ないし内容に基礎づけることにより、指揮監督性の根拠にならないと判断している。とくに、本判決が新奇に打ち出した契約目的による判断方法(以下「契約目的論」)は、契約は当事者間の規範(すなわち主観的規範)にすぎない以上、労働者性判断の客観性という労働法の基本とは真向から反するものと評価せざるをえない。・・・本判決は労働法(学)への挑戦状と受け取るべきだろう。

本久洋一著, 労働法律旬報2087号, [労働判例速報]スーパーホテル事件・東京地判令7.7.10 業務委託契約によるホテル支配人・副支配人の労基法・労契法上の労働者性が否定された例, p50

気になる部分を整理すると「労働法の基本」は“適法”であり、その反対にある「新奇に打ち出した・・・判断方法」は“違法”となろう。角谷昌毅裁判長らは、その立場を利用して判決(社会秩序を保つ手段)に「違法な判断方法」を故意に組入れ、社会秩序を棄損したとも言い換えられないだろうか。

こんな驚愕の言い換えが考えつくのも、日本の裁判所が労働法を学ばなくても制度上は裁判官にも裁判長にもなれるからである。

本久教授の論考文は、本当に含蓄に富んでいる。

さらに深掘りすると「労働者性を肯定的に評価すべき諸事情」が契約目的論によって「すべて・・・根拠にならない」と読めることに気がついた。すなわち「すべて」とは、昭和60年報告の判断要素(1)から(7)の“すべて”を意味するのではないかと予想できたからである。

そこでメンバーは、AIを使って調査することにした。

「ChatGPT」などで判決文を調べるのだが、判決文はA4サイズの印刷物でしかない。英語圏システムは“縦書き文章”の分析に弱く、横書き文章にデジタル化する必要があった。結局、判決文114ページを「Word」に手入力してデジタル化した。

早速、解析すると「角谷判決の事実認定と評価の状況」という表ができた。もちろん手作業でも判決を吟味もしている。本久教授が言う「すべて」とは、まさに全部(すべて)を指していたのだ。

角谷判決の事実認定と評価の状況
昭和60年労基研報告「判断基準」 労働者性を肯定する事実 地裁判決の評価
(1) 仕事の依頼、業務従事の指示等に対する諾否の自由の欠如 事実認定あり 契約義務で指揮監督関係を示すものとはいえない
(2) 業務遂行上の指揮監督の存在 事実認定あり 契約目的だから指揮監督関係を基礎づけるものとはいえない
(3) 時間的・場所的拘束性 事実認定あり 契約内容と業務性質だから指揮監督関係を基礎づけるものではない
(4) 代替性の欠如 事実認定あり 契約目的だから代替性がないということはできない
(5) 報酬の労務対償性 事実認定あり 契約内容から労務対償性は認め難い
(6) 事業者性の欠如 事実認定あり 労働者性がある
(7) 専属性 事実認定あり 専属性がある

「労働者性を肯定する事実」の欄を見てほしい。すべてが事実認定されていた。しかも本久教授の解説のとおり、角谷判決では補強的要素だけが肯定的に評価されており(6)事業者性は「労働者性がある」と(7)専属性は「専属性がある」となっていた。

角谷判決が本久教授に「本判決は労働法(学)への挑戦状と受け取るべきだろう。」と言わしめたのは、認定事実だけでも「労働者性判断の客観性という労働法の基本」から判断すれば、メンバーたちが労働者と評価できるものを「契約目的論」で歪めたからに他ならない。

2026年(令和8年)3月10日、高裁において控訴審の第1回期日を迎えることができた。

有識者会議が整理し積み上げた渾身の『控訴理由書』が無事に提出されたからであった。本書は全部で183ページ、全6冊となった。メンバーたちの読んだ感想は「労働者性判断」の教科書のようであった。

当日はメンバーの意見陳述、さらに代理人の意見陳述を行った。そのあとは進行協議(誤解なく本当のものである)が別室で開かれた。裁判長の指導によって年内スケジュールの大枠が決められた。

裁判長は「しっかり見ようと思います」と言っていた。1回で結審することはないとわかった。

メンバーたちは――ここからが本当の勝負だと思っている。