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#1 事件の被害者となるフリーランス(個人事業主)——国民を“モノのよう”に使い捨てる『労働政策』

名ばかり個人事業主・偽装フリーランス

「フリーランス(個人事業主)」は、企業にとって、たくさんのメリットがある存在だ。「正社員」の労働と比較すると、コストパフォーマンスが抜群によい。しかも管理する手間も少なくて済む。

脇田滋編著『ディスガイズド・エンプロイメント名ばかり個人事業主』(学習の友社、2020年7月10日)から引用すると、つぎのように一目瞭然である。

【表1】労働者と個人請負で適用される労働・社会関連法の違い

表は横スクロールできます。

労働者 個人請負 個人請負が不利な主要な事項
労働組合法争議行為、団交、協約、不当労働行為救済関連の規定不適用
労働基準法労働契約、解雇予告、休業手当、労働時間、有給休暇、残業手当、年少者、女子保護規定など不適用。労働基準監督なし
労働安全衛生法労働安全衛生上の保護なし
最低賃金法最低賃金保障なし
労働契約法濫用的解雇・雇い止め禁止・無期転換なし
賃金支払確保法報酬確保の特別手段なし
パートタイム・有期雇用労働法均等待遇、均衡待遇保障なし
育児休業法育児休業・介護休業なし
労働施策総合推進法パワハラ規制(2020年6月施行)不適用
男女雇用均等法男女差別禁止規定不適用
厚生年金国民年金(1号被保険者)として基礎年金しかなく、年金額、支給条件で大きな格差
健康保険国民健康保険では、傷病手当がなく、高い国保保険料の負担
労災保険業務災害補償・通勤災害保障なし(一部、特別加入可能)
雇用保険失業給付、雇用調整助成金などの適用なし
所得税法(給与所得)事業者所得

脇田滋編著. ディスガイズド・エンプロイメント―名ばかり個人事業主. 学習の友,  2020,  p.113 より作成

労基法の適用の有無が“大きな違い”を生じさせている。

正社員は「労働基準法上の労働者」とされ、さまざまな労働関係法令で守られる。たとえば、最低賃金法は報酬の最低額を保証する。労働施策総合推進法はパワハラ規制であり、雇用保険は失業給付で結構な金額を貰える制度のことだ。

こうした手厚い保護は、“憲法が保障する”基本的人権に他ならない。

待遇が悪いのは、「自分のせいだ」というような“自己責任論”によって、この重要なことを忘れてはならない。

これに対して、「フリーランス新法」によりフリーランスにも、一定の保護が生まれた。学習院大学法学部橋本陽子教授の著書『労働法はフリーランスを守れるか――これからの雇用社会を考える』(ちくま新書、二〇二四年三月一〇日)から専門家の意見を、つぎのように引用する。

フリーランス新法における労働法上の規制は、労働者に認められる保護の内容と比べると、かなり限定的なものであると評価せざるを得ない。解雇権濫用法理(労契法一六条)が適用されない以上、育児・介護との両立の配慮義務を課しても、委託者は、妊娠・出産したフリーランスとの契約を解約すれば足りることになる。

橋本陽子著. 労働法はフリーランスを守れるか――これからの雇用社会を考える. ちくま新書, 2024年, p.226

個人であっても、憲法が保障する基本的人権は、「雇用契約」と「業務委託(請負)契約」では、大きな格差が明らかに残ったままだ。

しかも、業務委託(請負)などの契約に従業員の雇用が盛り込まれた場合は、フリーランス新法さえも適用外となる。

本当に“かなり限定的”な保護がフリーランスの働き方なのである。

こうしたわけで、フリーランスは企業内やその周辺に意外といるはずだ。もしかすると、あなた自身(フリーランス)が「社員と同じ働き方」にも関わらず、激しい待遇格差をつけられて憤っているかもしれない。

NHK特集シリーズ「沈む中流」の中で、『正社員のはずが・・・・不安定化する“中流”の働き方』が放送された。

その中で、正社員から業務委託契約への切り替えを迫られる話。また、試用期間3か月だけの業務委託契約のはずが、1年近くそのままとされ、突然の契約の打ち切りに遭う話など。

企業内やその周辺でフリーランスの問題は起きている。

フリーランスが企業に重用される中で、契約の「債務不履行(フリーランスが従わない、働けないなど)」があると賠償請求権が発注者に生じる。また、契約期間中に解約すると、発注者に違約金などの名目で報酬額と同額、または、それ以上の金銭を請求される。

このような条件がある契約にたくさん業務を盛り込むことで、「脅かして拘束できる」状態に置かれてしまう。裁量のない拘束された“見せかけの”フリーランス(個人事業主)。

すなわち、「名ばかり個人事業主・偽装フリーランス」とされてしまうのだ。

その結果、さまざまな事件の被害者として、つぎのようにフリーランスが登場してきた。

氷山の一角であろうが、AV出演拒否の賠償金、過労死、やりがい搾取、いじめと自殺、児童労働と性搾取などがある。こうした事件のひとつにスーパーホテル・ベンチャー支配人の事件がある。なお、この事件の当事者である「スーパーホテル支配人被害者の会(スーパーホテルユニオン)」をこれより以下では、「メンバー」と呼ぶことにする。

東京新聞 (2021年1月14日)

よく考えてほしい。被害者たちは、「人間」であり、「国民」の「個人」が“モノのよう”に扱われている。じつは、あなたの身近にも同じことが起きているはずだ。

ただ、出来事をリンクさせて、考えたことがないだけ——

これより以下では、重要な登場人物の4人を定義したい。そのうち2人は、「労働基準法(以下、労基法と略す)」から引用することにした。

1人目は、労基法第9条にある「労働者」である。

正社員や社員などを指す言葉だ。また、労基法上の労働者とも呼ばれる。「職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者」とされている。そして、事業者に対する反対概念の意義もある。ただし、文脈上で意味が指定される場合は、それに従うものとする。

2人目は、労基法第10条の「使用者」だ。

企業・団体や会社、発注者、求人の募集者などを指す。「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」とされている。

3人目は、「事業者」である。

独立して仕事を請負う個人であり、店舗経営者などの個人事業主やフリーランスを指す場合に呼ぶ。また、労働者に対する反対概念の意義も含まれている。

4人目は、「名ばかり個人事業主」である。

すでに紹介した「名ばかり個人事業主・偽装フリーランス」のことだ。詳しくは別で紹介するが、「名ばかり個人事業主」と簡略して呼ぶ。